神戸地方裁判所 昭和34年(わ)699号 判決 1959年8月21日
主文
本件は管轄違
理由
本件公訴事実によれば、被告人は国鉄東灘駅職員にして昭和三十四年五月十日午前八時五十分よりの同駅の点呼に出席したものであるが、同年六月十六日神戸地方裁判所において、小泉哲夫、川口末夫、株本健三の公務執行妨害、傷害被疑事件の刑事訴訟法第二二六条による証人として出廷し宣誓した上、裁判官より右点呼における小泉、川口の出席の有無、証人の位置、点呼終了時における発言者の有無、点呼終了後発生した事態の状況について尋問を受けた際、正当の理由なきにかかわらず、その証言を拒んだものである、というにある。
よつて、職権により按ずるに、本件公訴は刑事訴訟法第百六十一条違反として提起せられたものであることは起訴状中罪名及び罰条欄に同法条の記載あることにより明らかなところ、同法条によればその法定刑は「五千円以下の罰金又は拘留若しくはその併科」である。然して、裁判所法第三十三条第一項第二号、第二十四条第一号の規定を合せ考えると、罰金以下の刑にあたる罪に係る簡易裁判所の専属的事物管轄に属するものと解するを相当とすべく、従つて「罰金以下の刑にあたる」事件が、地方裁判所に適法に係属する他の被告事件と関連し、該被告事件に併合審判される場合は格別「罰金以下の刑にあたる」被告事件だけの場合は地方裁判所にその事物管轄権はない。また、その公訴提起を受けた地方裁判所はこれを管轄簡易裁判所に移送することもできないものと解する。このことは、現行刑事訴訟法には旧刑事訴訟法第三百五十六条のような規定を設けていないことに照し、また、他に移送を認めた法令上の根拠もないことに徴し明らかである。
結局本件被告事件は当裁判所の管轄に属しないし、管轄簡易裁判所に移送する途もないから刑事訴訟法第三百二十九条本文に則り管轄違の言渡をすることとし、主文のとおり判決する。
(裁判官 福地寿三)